珠玉の言葉 国語試験の問題文より① 重松清「熱球」
たかです
みなさんは学生の頃、国語の試験を受けていて
『次の文章を読んで後の問いに答えなさい。』
の「次の文章」の続きを読んでみたいと思ったことはありませんか?
入試問題で使われる小説文は結構な確率でクライマックスの一番いい所を「次の文章」として拝借するケースが多いのです。
たかは職業柄、毎年数多くの「次の文章」を読みます。毎週の授業のための準備はもちろんですが、特に入試が終わって一段落した4月~5月にかけては入試問題の研究も兼ねて読む量が増えます。その中で出会った言葉や本は自分の中でかけがえのないものとなって、自分の生きる指針となったり授業の中での脱線話のネタになったりします。
そんな中からいくつか紹介してみたいと思います。
1回目の今日は、重松清「熱球」です。※あらすじ等、ネタばれ注意です!
◆あらすじ◆
「僕」(=洋司)は出版社を辞め、娘の美奈子とともに、故郷である山口県周防に住む父の元で暮らしていた。「僕」は留学先から一時帰国している妻の和美と、東京に戻って親子三人で暮らすことを相談していたが、父には言い出せずにいた・・・。
◆場面◆
言い出せなかったその言葉を父から言われてしまう場面
・・・父は微笑を浮かべたまま、今度は僕の方を見た。
「わしは一人でもだいじょうぶじゃけん」
「・・・ちょっと待ってよ」
次に和美を見る。
「どうものう、洋司と美奈子ちゃんがおってくれるとにぎやかでええんじゃが、年寄りにはちいと疲れる。一人でおったほうが気楽でええわ」・・・
この後「おじいちゃん一人ぼっちになってしまう」と心配する美奈子に対して
◆珠玉の言葉◆
「ひとりぼっちと一人暮らしはちがうんだよ」
・・・いやあ、不覚にも涙を流してしまいました。言いにくかったことを父に言わせる設定もうまいなぁと思っていたところへとどめの一言。
自分にも10年近く故郷に帰らなかった(帰れなかった)時期があったり、高校を卒業してすぐに実家を出たりしたり、いろんなことが重なって頭の中によみがえってきました。
人と人との絆とか縁というものは本当に不思議なものです。何かほんの小さなことが1つ違っただけでその人とは巡り合わなかったかもしれない。そうなると今の自分はこの場所にいないだろうし、きっとその人のことは知らずに違う道を歩いているに違いない。親兄弟に限らずいろんな人との出会いを大切にしたいと思わせてくれた1冊です。