珠玉の言葉 国語試験の問題文より④ 伊集院静「三年坂」
たかです
今日は伊集院静から
伊集院静・・・たかが今一番好きな作家です。
何が好きか?自分でもうまく説明できないのですが、一言で言うと「心に響く」のです。重松清も好きな作家なのですが、重松は「小中学生の心理描写」「中年男の心理描写」という風に「心に響く」傾向(=これが重松作品の真骨頂だと思います)が(たかがこれまでに読んだ)どの作品からも感じ取れるのですが、伊集院はそういう傾向のようなものが少なく、非常に多彩でいい意味で期待を裏切られます。
「人の深い悲しみ」や「親子の絆」であったり「成長する青少年の姿」であったり、時には「破天荒なギャンブル」だったりと非常に振れ幅が大きいのです。深い悲しみを乗り越えた人が持つ慈愛を感じさせるかと思えば、非常に人間臭く泥臭い一面を見せたりもします。伊集院自身の(我々の想像を絶する)体験が根底にあり、彼の生き方そのものに敬意と魅力を感じます。今日は、そんな伊集院作品の中からです。
「三年坂」に収録されている短編「皐月」 ※あらすじ等、ネタばれ注意です!
◆あらすじ◆
小学生の惇は、父の正作と一緒に青煙峠の山中へ笹を取りに来た。正作は、滝の岩場で崖下の皐月を取ろうとして転落、左腕にけがをして右腕だけで細い松の木にぶら下がる。惇は、山小屋に助けを求めに走る。
◆場面◆
山小屋にいた老人にわけを話して一緒に父を助けに行くが、惇は途中で老人の走るスピードについていけずに一人になる。後を追って父がいるはずの岩場にたどり着いた。
・・・崖の赤土が切れて岩場が見えると、惇は不安に胸が詰まって息苦しくなった。
それでも足を止めないで一枚岩の下に着くと声を上げて正作を呼ぼうとした。でも黙って岩を周り、一枚岩の上へ駆け登った。
◆珠玉の言葉◆
でも黙って岩を周り、一枚岩の上へ駆け登った。
(空白の2行)
誰もいない。
初めて読んだ時、空白の2行を見て、思わず「すごい!」と唸ってしまった。
短文で場面を描写することによって積み重ねてきた緊迫感が頂点に達するところで、「空白」=無を使ってそれを表現する。沈黙は金とはまさにこれです。